山崎 最初に作品を見せていただいた時は、まだ全部できあがってなくて、最後のほうはまだ絵コンテの状態だったんですよね。それが逆にすごくよかったと言うか、僕はアニメーションがどうやって作られているのか全然わからなかったので、その裏側が垣間見られて非常に刺激的でした。絵コンテに写真が使われたりしてましたけど、結構ロケハンをやられてるんですよね?
新海 制作に取り掛かったのが1年半前くらいで、最初はロケハンばかりしてました。
山崎 それでなのか、非常に実写に近い感じがしましたね。ストーリー的にもそういう印象でしたし、ポスターの絵なんか見てもすごくリアルと言うか、迫ってくる感じで。
新海 ポスターの絵の舞台になっているのは「岩舟」という栃木の駅なんですけど、そこにも実際行ってるんですよ。スタッフ皆でカメラ持って出掛けて行って、絵にする場所に男女に立ってもらって写真撮って。それをもとにデジタルで絵に起こしてるので、実写っぽい感じが出てるのかもしれないですね。
山崎 あぁなるほど。でもそれをすべてアニメーションにしているという。
新海 そうですね。素材的にはほかに動画も撮っていて、その動画と静止画から絵コンテを作ってるんですよ。なので、写真素材をつなげていけば実写版を作れないこともないんですけど(笑)、僕はやっぱり絵に描かれたものが好きなんです。写真をもとに背景を描くにしても、その時にいろんなものを付け足したり、省略したりしながら、アニメーションとしての絵を組み立てていくのが面白くて。
山崎 景色、背景はやっぱりすごくきれいだなって思いました。あと、季節のうつろいとか、桜が風で散っている様子とか、細部まできちんと描かれているのが印象的で。それもしっかりとロケハンをやられているから描けるんでしょうね。そういう部分でも作品のボリューム感というのをすごく感じましたね。
新海 そう言っていただけるとありがたいです。ただ、想像で組み立ててる部分もあるんですけどね。実写と違って天候や季節に左右されない部分もあるので、夏の景色を撮影して、冬に雪が降ったらどうなるのかなって想像して雪景色を描いていったり。でも、それだけだと描こうとしてるものが……。
山崎 ……貧弱な感じになってしまう?
新海 そうなんですよ。これがファンタジーやSFだったらゼロから組み立てられるぶん、絵にもしやすいし、想像だけでも豊かなものにすることができると思うんですね。でも日常の風景だと、なかなかそうはいかない。
山崎 信憑性みたいなところですよね。
新海 そうですね。実際にあるものを描こうと思ったら、実際に見てみないことには難しいんですよね。想像で描こうとしてしまうと、どうしても限定されてしまう。アニメーションなんだけれど現実的なものを描こうという時には、ロケハンを繰り返したほうがやっぱり豊かなものにはなりますね。
山崎 そう考えると、アニメーションって非常に手の込んだ作り方をしてるんだなと思いますね。実写の現場でも美術さんがいて、セットを作ったり、飾りつけをしたりっていうのはありますけど、それを監督である新海さんがほぼひとりでやられていて。膨大な時間が掛かるし、すごい作業量ですよね。
新海 作業量的にはそうですね。しかも写真や映像を撮るだけじゃなくて、今度はさらにそれを絵に描いていくわけですから。アニメーションの場合、絵を動かすのに基本的には1秒間に24枚の絵が必要になるんです。そこを上手く工夫して1秒間に12枚とか8枚、あるいは静止させてしまって1枚にしたりするわけですが、それでも動画・背景ともに膨大な枚数が必要になります。他の劇場アニメに比べると動画枚数はかなり少ない部類だと思いますがそれでも2万枚以上、背景は900枚以上で、それを何人かのスタッフで分担して描いていくんです。
山崎 人も時間も要りますね。でも最初の作品(『ほしのこえ』)があるじゃないですか。あれは全部ひとりでやられたんですよね?
新海 ひとりでやりましたけど、あれは20分くらいで尺が短かったので。あと、できるだけ動くところも少なく作ってたんですよ(笑)。それまでアニメーションの動く絵というのを描いたことがなかったので、見よう見まねでひとりで全部やってみたいというのがあって。仕事も辞めたあとだったので、その間ずっと家にこもってやってたんですけど、それでも7〜8カ月くらい掛かりましたね。 |